経営指標を表すさまざまな用語がある中で、エンゲージメントという用語を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
エンゲージメントとは信頼関係や貢献への意欲を表す言葉であり、昨今では顧客エンゲージメントや従業員エンゲージメントなどの使われ方がされています。
かつての市場であれば、顧客エンゲージメントだけを高めていれば、生き残ることはできましたが、現在では状況が異なります。
顧客エンゲージメントだけでなく、従業員エンゲージメントも高めなければ、サービスの質や生産性が上がらず、競争に勝ち抜くことが難しい状況です。
今回は、顧客と従業員の絆を深めるエンゲージメントビジネスの重要性を解説します。
顧客と従業員の双方のエンゲージメントを高めることができれば、ビジネスでの好循環が期待できます。
自社のエンゲージメントに不安を感じている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
ビジネスエンゲージメントの基本を理解する
エンゲージメントは直訳すると契約・約束といった意味になりますが、使われるシチュエーションで意味や解釈が異なるため、想像より難しい用語です。 顧客エンゲージメントや従業員エンゲージメントの高め方を解説する前に、本章ではビジネスシーンにおけるエンゲージメントがどのような意味かを解説します。
ビジネスにおけるエンゲージメントの意味
ビジネスにおけるエンゲージメントとは、深いつながりや強い絆のある関係性を指します。
たとえば、長年の付き合いがあるカスタマーと企業の関係性です。
長期的な付き合いのあるカスタマーと企業は単なる取引関係を超えて、強い信頼関係を築いており、ビジネスシーンでのエンゲージメントが高い状態にあるといえます。
強い信頼関係は売上や周囲への口コミなどさまざまなアクションにつながるため、ビジネスシーンで重要視されています。
顧客エンゲージメントとは?
顧客エンゲージメントとは、顧客が企業やブランドに愛着や信頼を指します。
一般的にファンやリピーター、ロイヤルカスタマーと呼ばれる顧客は企業に良い影響をもたらすため、顧客エンゲージメントは高いといえます。
顧客エンゲージメントが高い状態では、顧客が以下の行動を見せることがしばしばあります。
- SNSでの企業やブランドの発信に対して、リポストやコメントをするなど積極的に関わる
- SNSだけでなくリアルで関わる周囲の人にも企業やブランドを勧める
- 新製品が販売される前からチェックをしていて購入する
顧客エンゲージメントの状態は、企業が長期的な経営を目指すうえで重要なカギとなります。
顧客エンゲージメントの高い状態を維持できれば、顧客との長期的な関係が続き、売上や利益、営業コストの低減などの効果が期待できます。
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対する貢献意欲や一体感を指す言葉です。
当事者意識を持って働いている従業員やチームの成果を第一に考えて働く従業員は、従業員エンゲージメントが高い状態にあるといえるでしょう。
従業員エンゲージメントが高い従業員は、以下の特徴があります。
- 企業が掲げるビジョンやミッションに共感しており、業務に意義を感じている
- 自ら課題を見つけて主体的に行動している
- チームの成果を第一に考えて、周囲との協力を惜しまない
従業員エンゲージメントの状態は、生産性や離職率、イノベーションの創出などのカギを握っています。
従業員エンゲージメントの高い状態を維持できれば、従業員は高いモチベーションで仕事に臨み、高い生産性の実現や離職率の低下が期待できます。
両エンゲージメントの相乗効果
「お客様は神様」との言葉があるとおり、日本のビジネス市場では顧客エンゲージメントを高める施策を続けてきました。
しかし昨今では、顧客エンゲージメントを高めるだけでは厳しい競争を勝ち抜くのは難しくなっており、従業員エンゲージメントの両方を高めることが求められています。
従業員エンゲージメントを高めると、サービス向上や新たなイノベーションがもたらされ、サービスを利用する顧客に好影響を及ぼします。
質の高いサービスを受けた顧客は企業・ブランドに対する印象が良くなり、自然と顧客エンゲージメントが高まるでしょう。
また反対に顧客エンゲージメントを高めることは、従業員の自社やブランドに対する意識が強まります。
顧客の期待を裏切らないために、サービスの向上に取り組もうとする意識が高まるため、従業員エンゲージメントが高まります。 どちらのエンゲージメントだけでは不十分であり、昨今では両方の相乗効果がビジネスをさらに一歩上にレベルを上げると考えてよいでしょう。
成果を出すための「実践ロードマップ」:3つのステップ
エンゲージメントを高める必要性は理解している一方で、どのように高めていけばよいのかで悩んでいる方は多いでしょう。
本章ではエンゲージメントを高めるプロセスを3つのステップに分けて解説します。
Step1:現状把握とビジョン策定
エンゲージメントを高める具体的なアクションを起こす前に、まずは現状の把握から始めましょう。
顧客と従業員の両方のエンゲージメントを見える化するために、以下の調査を行います。
- 従業員の場合:従業員のサーベイを実施して、仕事への満足度・成長機会の度合・組織との一体感などを定量化する
- 顧客の場合:顧客アンケートを実施して、顧客がどの程度ブランドを信頼・おすすめできるかを定量化する
現状を把握したうえで、どのような顧客・従業員体験を提供したいのかエンゲージメントのビジョンを設定します。
ビジョンはより具体化していき、最終的には数値目標として追えるようにします。
Step2:顧客・従業員それぞれへの「具体的な戦略」
エンゲージメントのビジョンを策定した後は、顧客・従業員の双方に対して、どのようなアプローチをするのか具体的な戦略を練ります。
顧客エンゲージメントを高める実践戦略
顧客エンゲージメントを高めるには「ブランドの価値を高める一員」として関われるような戦略を取るとよいでしょう。
ブランドとの一体感を感じられれば、顧客はよりブランドに対する愛着が深まるためです。
具体的には以下のアプローチで顧客エンゲージメントを高めます。
- パーソナライズされたコミュニケーション:購買履歴や行動データに基づいたコミュニケーションで自分とブランドのつながりを実感してもらう
- コミュニティ形成:ブランドのファン同士が交流できるオンラインサロンやSNSグループなどの提供
- 顧客の声を取り入れる仕組みの形成:レビューやSNS投稿を通じて、自分の発言がブランド体験に影響を与える仕組み作り
従業員エンゲージメントを高める実践戦略
従業員エンゲージメントを高めるには「この会社で働く魅力」を強く感じられる戦略を取るとよいでしょう。
数多くの選択肢があるなかで、自社にしかない魅力を感じられれば、従業員は企業に対する貢献意欲が増します。
具体的には以下のアプローチで従業員エンゲージメントを高めます。
- 企業理念の浸透:日常の業務と理念を結びつけ、企業としてあり方を共有する
- 公正な評価制度:努力や成果を透明性の高い基準で評価する
- 柔軟な働き方の提供:リモートワークやフレックスタイムなどライフスタイルに合わせた制度を提供する
- ウェルビーイング施策:メンタルヘルス支援や健康促進プログラムを導入する
- 心理的安全性の確保:安心して意見を述べられる職場環境を作る
Step3:効果測定と改善のPDCAサイクル
顧客・従業員エンゲージメントを高める戦略が決まった後は実行して、効果を測定します。
STEP1で実施したアンケート調査などを再び行い、データ上の変化を確認します。
プラスの作用が見られる部分に関しては継続的、効果がみられない項目やマイナスの作用が働いている場合には改善策を打ち出しましょう。
PDCAのサイクルを常に繰り返すことで、エンゲージメントを高める一連のアクションは一過性の対応ではなく、企業文化として根付くようになります。
【最新事例】エンゲージメントビジネスで成功した企業に学ぶ
エンゲージメントを高めるアプローチには複数の方法があり、どのようなやり方が自社に合っているのか迷う方は多いでしょう。
本章ではエンゲージメントビジネスで成功した企業の事例を解説します。
実際に成功した企業の事例から、自社にマッチしたアプローチのヒントを見つけていただければと思います。
事例1:食品業界A社
食品加工の技術レベルの向上やブランド品の直取引の開始など、食品業界では年々他社との差別化が難しくなっています。
食品業界に所属するA社では、エンゲージメントビジネスに力を入れることで激しい市場競争を勝ち抜く戦略を採用しました。
同時に離職率の高い食品業界でいかにして、従業員に働き続けてもらうかの対策を行いました。
A社では以下のアプローチで顧客・従業員エンゲージメントを高めています。
- ファンコミュニティの創設:ファン同士でレシピの共有や新商品の感想共有ができるようにした
- アンケート機能の強化:ファンからの意見を拾い上げられるように機能強化と実際の商品に反映する
- 販売店での接客マニュアル廃止:従業員が自発的に動けるようにしたことで顧客に最適な価値を提供できるようにする
- 360度評価:上司からの評価だけでなく、自己評価や同僚からの評価で査定が決まる
事例2:ファッション業界B社
高級ブランドの衣服は、一般的なファッションアイテムとは異なり、購入する機会は年間で多くありません。
高級ブランドの購入を思い浮かべた際に、いかにしてB社を思い浮かべてもらうかがカギと考え、B社はエンゲージメントビジネスに力を入れるようになりました。
同時にファッション業界も食品業界と同様に離職率の高さに頭を悩ませていたため、従業員エンゲージメントも高まる戦略を考えました。
B社では以下のアプローチで顧客・従業員エンゲージメントを高めています。
- ファンコミュニティの創設:アイテムの感想共有やアイテムのお手入れ方法を発信できるようにした
- オフラインイベントの開催:アイテムの製造工場の見学会やファンイベントの開催
- 多様な働き方を支援する制度:フレックスタイム・ロングバケーション・リモートワークなど多様な働き方を支援する制度を設計
- 斬新なオフィスデザイン:デザイナーやバックオフィスのスタッフが働くオフィスを斬新なデザインに一新。またカフェテリアやヨガスペースも設置
まとめ
今回は顧客と従業員の絆を深めるエンゲージメントビジネスの重要性を解説しました。
今回解説した内容をまとめると以下のとおりです。
- 顧客エンゲージメントだけでなく従業員エンゲージメントも重要
- 顧客エンゲージメントを高めるには企業やブランドとのつながりを感じられるようにする
- 従業員エンゲージメントを高めるには企業で働く魅力を感じられるようにする
