ご自分でPCのキッティングをされたことはありますか。自分のPCであれば、「何とかなる」と思いながら、パズルを解くように進めていきますが、会社のPCでは、そうはいきません。
意外に時間や手間がかかるキッティング作業。担当されている情シス部門や総務部門の方に、キッティング作業の効率化を提案します。
キッティング作業とは?中小企業が抱える隠れた課題
キッティングとは、「情報機器を、使用するシステム環境に合わせて、構成、設定し、業務での利用が可能な状態にすること」です。その対象として、パソコン、タブレット、スマートフォン、サーバなどがありますが、本記事では、パソコンを中心に解説します。
中小企業にとってのキッティング作業は、簡単なものではありません。その理由は「キッティング専任担当者を、常に置いておくわけにはいかないから」です。
キッティング作業の基本ステップ
企業によって、また、利用するパソコンのタイプによって、多少の違いはありますが、キッティングの基本的なステップは以下の通りです。
Step1:キッティング内容を詳細に記したドキュメントを準備する。企業のシステム環境の変化、ハードウェアやOSの変化等に合わせた最新版が必要。
Step2:OSをインストールし、言語設定やタイムゾーン設定を行う。
Step3:企業内のネットワークに接続する設定を行い、LAN、Wi-Fi、イントラネット接続(グループポリシーを含む)、インターネット接続を確認する。
Step4:ウイルス対策ソフト等のセキュリティソフトを導入する。必要であれば、暗号化設定を行い、キッティング中のセキュリティを確保する。
Step5:OSを最新にアップデートする。
Step6:追加が必要なデバイスドライバのインストール、または、更新を行う。
Step7:業務用アプリケーションソフトウェア(オフィスシステム、グループウェア、業務システム等)を導入する。
Step8:その他、企業固有の環境設定を行う。
Step9:最終動作確認を行い、正常稼働を確認後、資産管理台帳に登録する。 (Step3~Step6は、システム環境によって、順序が異なります)
中小企業がキッティングでつまずく典型的なポイント
これらのStepを忠実に進めて行くには、細心の注意と、それに対応する時間が必要です。Step毎に、確認しながら進めていく訳ですが、それでも、最終動作確認で、予想外の結果になれば、設定間違いの箇所を探すだけでも、大変です。また、これが、1台だけの話ならいいのですが、往々にして、複数台、ピーク時には10台を超えるキッティングが必要になり、担当者の負担は非常に大きくなります。
キッティング作業を劇的に効率化!2つのアプローチ
ここからは、その、キッティングの課題を解決する方法について解説します。方法は、大きく、ふたつあります。ひとつは、「委託」、もうひとつは、「自動化」です。
プロに任せて安心!キッティング作業「委託」の賢い選び方
まず、ひとつめの「委託」です。これは、文字通り、キッティングを専門とする業者に、作業を委託する方式です。技術的には、それほど難しい話ではありませんが、メリットとともに、いくつかの留意点があります。
委託のメリット・デメリット
「委託」のメリットは、業者側に専門知識があること、つまり、発注側企業に、専任を置かなくてよいことが一番に挙げられます。それによって、作業時間は短くなりますし、作業品質も向上します。
ただし、注意点とデメリットがあります。
注意点としては、「Step1の『キッティング内容を詳細に記したドキュメントを準備する』必要があること」です。これは、社内であろうと外部業者であろうと同じなのですが、キッティングのための「仕様書」がなければ、作業を始めることができません。もし、仕様書を作成する時間と技術が無ければ、その部分も外注することになります。
- 次に、デメリットを挙げてみます。
- 外部コストが発生する
- セキュリティ設定、利用システム等の機密事項が業者に伝わる
- 仕様書以外の設定を行う柔軟性は無い
キッティング委託先の選び方とチェックポイント
上記の、メリット、デメリット、注意点を念頭に委託先を考えると、次の要件が抽出されます。
- 受託実績が豊富である。
- 仕様書の理解が適切にできる。または、仕様書の未熟な部分の補足ができる。または、仕様書が作成できる。
- 費用対効果が納得できるものである。
- セキュリティ体制が整っている。
- キッティング時、キッティング後のサポート体制が充実している。
- 上記を含めたサービス内容が明確である。
また、技術要件以外にも、担当者の誠実な対応が望まれます。
委託契約時の重要項目
上記の内、セキュリティ体制については、NDA(秘密保持契約)を、全体のサービス内容については、SLA(サービス品質保証)を締結すべきです。
こんな中小企業には「委託」がおすすめ!
時間やコストを考えると、「1台だけのキッティング」にNDAを締結して、SLAを議論することはあり得ませんが、逆に、一時的に大量のキッティングが発生する場合や、セキュリティの設定や特殊な環境設定のために高度な知識を必要とする場合は、「IT専任者」の代行として、「委託」は効果のある選択肢です。特に、仕様書を、いっしょになって考えてくれる委託先があれば、とても頼りになります。
作業時間ゼロへ!キッティング作業「自動化」の基本とツール
次に、「自動化」について、考えてみます。
自動化を検討する上で、重要なポイントは、「自動化ツールの選定」と「そのツールの導入」です。
なお、前もって、お伝えしますが、「自動化」を選ぶとしても、「仕様書」の準備は必須です。このことは、注意点として、ツール導入作業に関係してきます。
自動化のメリット・デメリット
「自動化」とは、つまり、人ではなく、機械的に、キッティングを行うという意味です。そのメリットは、以下の通りです。
- 人為的ミスの削減
- 作業時間の短縮
- 作業プロセスと作業結果の標準化
- コスト削減の可能性(自動化の方式に依存する)
また、デメリットには、以下のものがあります。
- 初期設定の手間:機械にキッティング仕様を仕組まなければならない
- 専門知識が必要:機械の扱いのための専門知識が必要になる
- 柔軟性の限界:プロセスが標準化されるので、個別対応のような柔軟性は期待できない
中小企業向けキッティング自動化ツールの種類と選び方
「自動化(機械化)」と言っても、いくつかの方法があります。ここでは、代表的な4つを紹介します。
・クローニングツール:文字通り、「クローンを作る」のですが、その元となるパソコンは「マスター」と呼ばれます。予め、仕様通りの「マスター」を作っておき、それをコピーしてクローンを作るのです。ただし、最終的に個々のパソコンに必要な設定作業が残ります。
・MDM(モバイルデバイス管理):MDM用のサーバにキッティングのための仕様情報を登録し、MDMのクライアント機能を実装しているパソコンが、自動的にサーバと連携し、キッティングが行われます。なお、MDMサーバの設置環境として、クラウド、オンプレミス、SaaSがあります。
・RPA:RPAに登録されたキッティングのための仕様情報をもとに、ネットワークで接続されたパソコンのキッティングをRPAが行います。なお、RPAサーバは、オンプレミスサーバか、デスクトップへの設置が適合性が高く、クラウド上のサーバへの設置やSaaSは可能ではあるものの、軽微な修正に使うというような、目的の精査が必要です。
・スクリプト:PowerShellなどのスクリプト言語を使って、キッティングの仕様をプログラミングし、それをパソコン内で稼働させることにより、キッティングを行います。
この4タイプを簡単に比較すると、以下の表になります。どの方式を選ぶべきかについては、社内の技術と対象となるパソコンの数やキッティング場所を検討することになります。
キッティング自動化ツール比較表

自動化導入のステップと注意点
キッティングの自動化ツールを選定するプロセスとして、まず、現在、キッティングに関しての問題、課題を明確にし、それは、どのレベルまで解決すべきかの目標を立てます。また、一度に行うキッティングの数や、その、サイクルも明確にしておきます。
これらの分析をもとにして、最適なツールを選定し、テスト導入で評価を行った後、本格導入を行います。
これらのツールは、どれを選ぶにしても、対応技術が必要です。できれば、スモールスタートで開始して、技術を習得しながら、対象を拡げる計画にすべきでしょう。
こんな中小企業には「自動化」がおすすめ!
「委託」を選ぶのか、「自動化」を選ぶかのポイントは、以下のように考えられます。但し、これ以外の事業環境も影響しますので、ここまでの、「委託」「自動化」のメリット、デメリット、特徴を比較検討されることを、お勧めします。
- 継続的に、または、決まったサイクルで、パソコンの導入や入れ替えが発生=自動化
- 業務システムなどの利用環境の変化が多い=自動化
- IT担当者の発注毎の負担を軽減=自動化
- 何年かに一度、キッティングが必要=委託
- IT担当者の技術習得負荷を軽減=委託
【中小企業向け】キッティング委託と自動化の最適な組み合わせ戦略
前章とは、矛盾するのですが、「委託」と「自動化」を二者択一で考えるのではなく、それぞれの利点を活かし、中小企業にとって最適な組み合わせを考えるという戦略があります。それによって、費用対効果が最大化する可能性も生まれてきます。
組み合わせ事例と導入のヒント
まず、「仕様書」について、考えます。「仕様書」は、委託するにしても、自動化するにしても必須の要素です。それを自社内で作成/更新するか、外部のサポートを得るかは、ひとつのポイントです。
次のポイントは、微調整や軽微な変更の時の対応です。「委託」の場合、仕様変更はコストとなってしまいますが、「自動化」であれば、ツール側を変更すればできてしまいます。
このような状況を考えると、「初期導入は専門業者に委託し、その後の設定変更や軽微な追加作業は社内で自動化ツールを使って対応する」という組み合わせパターンが生まれます。そして、それが、事業の状況やシステム化の進捗度に合致すれば、最適解になるかもしれません。
コストシミュレーションの考え方
「委託」の場合、コストは、次のような計算式が成り立ちます。
年間コスト=(委託単価×年間台数)+社内管理コスト(人件費)
また、「自動化」の場合は、次のようになります。
年間コスト=初期導入費用+運用費用+社内管理コスト(人件費)
この数式によって、単純にコストを比較することはできますが、対する効果については、作業時間削減という定量的効果とともに、ノウハウの蓄積というような定性的効果も重要なポイントとなります。
まとめ
パソコンのキッティングについて解説しました。作業時間削減、コスト、知識・経験の蓄積等、いくつかの視点がありますが、現状分析と、解決すべき課題・問題の明確化によって、対策を検討してください。
