近年、企業はより自由な働き方を目指してさまざまな施策を導入しています。
いくつかの施策がある中で、代表的な施策にフリーアドレスオフィスが挙げられます。
フリーアドレスオフィスでは思わぬコミュニケーションが生まれ、そのコミュニケーションをきっかけにコラボレーションやイノベーションなど新しい可能性が期待できるでしょう。
一方で、フリーアドレスオフィスの注意点を理解して、導入・運用をしなければ、デメリットの方が大きくなるリスクもゼロではありません。
本記事では、フリーアドレスオフィスを導入するメリットやデメリット、実際の導入事例を解説します。 フリーアドレスオフィスの導入・運用を考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
フリーアドレスオフィスとは?基本から知る新しい働き方
フリーアドレスオフィスとは従業員の固定席がなく、空いている席を自由に使用する形態のオフィスです。
コミュニケーションの活性化やコスト削減などを目的に導入されます。 フリーアドレスオフィスでは、黙々と作業したい場合は周囲から離れている席、メンバーと議論を交わしながら業務を進めたい場合にはメンバーに近い席など、柔軟な働き方が実現します。
フリーアドレスオフィスの具体的なメリット
従来のオフィスの形態から、数多くの企業がフリーアドレスオフィスに切り替えています。
相応のコストを要するにも関わらず、フリーアドレスオフィスへ切り替えるのには、導入をするのは確かなメリットがあるためです。
本章では、フリーアドレスオフィスの具体的なメリットを解説します。
コミュニケーションの活性化と偶発的な出会い
フリーアドレスでは座る場所は時々で変わり、普段交流がほとんどないチームの方と隣になる機会が生まれます。
偶発的な出会いから交流が徐々に始まり、部署を超えての親交が深まるケースはフリーアドレスオフィスならではといえるでしょう。
部署の垣根を超えたコミュニケーションは、サービスや業務効率の改善の糸口となりこともあります。
フリーアドレスを導入している「LINEヤフー株式会社」では、業務に関わるチームメンバーの近くに座り、業務の効率化を実現しています。 隣り合わせで座ることで、よりダイレクトにコミュニケーションが取れて、サービスの改善につながっています。
参考:「実際、フリーアドレスってどうなの?」ヤフーで働く人たちの声を聞いてみた
コスト削減とスペースの有効活用
フリーアドレスの導入が進むと、オフィス面積の縮小による賃貸料や光熱費の削減ができます。
従来のひとりにつき、一つの机を用意する必要がなくなるため、必要最低限のスペースを確保するだけでよくなり、広いオフィスを確保する必要がなくなります。
例えば、東京都新宿区周辺でオフィスを借りると、坪単価2~3万円となり、一人当たり2坪が必要と考えると、月200~300万円の賃貸料がかかります。
フリーアドレスの導入により、坪数を半分にできれば、年間で1000万円以上のコスト削減が実現できます。
また、昨今では、仕事の内容や目的に合わせて、従業員がオフィス内外を問わず、働く場所と時間を自由に選択できる新しいワークスタイル「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の考え方が浸透しつつあり、オフィススペースの最適化を図り、有効活用しようとの動きにフリーアドレスがセットで導入されています。
従業員のエンゲージメント向上と生産性向上
フリーアドレスでは業務内容や働くメンバー、働く際の気分に合わせて座席を選びます。
自分で働き方を選べる自由度は仕事のモチベーションアップにつながり、自然とエンゲージメントは向上します。
フリーアドレスでは業務内容に合わせて席を選べるため、生産性が向上しやすい点も忘れてはならないポイントです。
例えば、プログラミングをする際に、窓辺で黙々と打ち込める席と議論の飛び交う席のどちらがプログラミングをしやすいか考えて、席を決めることができます。
答えはいうまでもなく前者であり、フリーアドレスでは業務に合った環境を選べるため、生産性の向上が実現します。
企業文化の変革とイノベーションの促進
フリーアドレスでは、業務で関わる人が常に変化するため、企業文化の変革が起きる可能性があります。
フリーアドレスにより、自分や所属チームとは異なる考え方や価値観に触れる機会が増えるためです。
今までとは異なる考え方や価値観に触れた結果、自社・自チームに良い物とわかれば、培ってきた企業文化が徐々に変わる可能性は増えます。
他にもフリーアドレスでは、関わる人が多くなるため、新しいイノベーションが生まれやすい土壌が整います。
新たな製品・サービスを打ち出したい企業にとっては、フリーアドレスの導入は大きな変化の機会といえるでしょう。
フリーアドレスオフィス導入に潜む意外なデメリットと具体的な対策
フリーアドレスオフィスの導入はメリットが大きく、デメリットがあまりないようにみえる制度です。
確かなメリットがある一方で、フリーアドレスには見落としがちなデメリットがいくつかあります。 本章ではフリーアドレスオフィスの意外なデメリットと対策法を解説します。
コミュニケーション不足と一体感の希薄化
フリーアドレスではメンバーが作業に合わせて、各々で異なる席に座るため、チーム内のコミュニケーションが不足する可能性が高まります。
フリーアドレスにあわせて、在宅勤務を導入している場合には、尚更、チーム内のコミュニケーションが希薄になる傾向があります。
フリーアドレスのメリットを生かしつつ、コミュニケーション不足を解消するためには定期的なチームミーティングを開催しましょう。
全員が出社している場合に、チームミーティングがある日は、近くの席に座るなどのルールを決めておけば、チーム内で直接コミュニケーションを取れる機会が設けられます。
出社のタイミングがバラバラな場合は、チームミーティングはWeb会議を活用することで、コミュニケーションが不足する事態は避けられます。
居場所の確保と荷物の管理の課題
フリーアドレスの場合、どこの席に座るかは出社した際に決めるため、タイミングによっては席が見つからないケースがあるでしょう。
出社後、すぐに業務に取り掛かりたい人にとっては不満を感じるポイントになります。
フリーアドレスでは決まった席がないことで、資料やデバイスをどこに置けばよいのか困る方も出てくるでしょう。
座席や荷物の問題が出てくるため、フリーアドレスを導入する際には、座席の予約システムや個人ロッカーの導入などが必要になります。
導入コストと運用負荷
固定席を採用していた企業がフリーアドレスを導入しようとすれば、大なり小なりコストが発生します。
具体的には、座席の撤去費用や私物用のロッカー購入費用、通信環境の強化費用、フリーアドレスを導入するメンバーの人件費などです。
フリーアドレスの導入後、適切な運用をするためには、同様のコストが発生します。
フリーアドレスは、導入時はもちろん、導入後も一定のコストがかかることを知っておきましょう。
情報セキュリティとプライバシーの確保
フリーアドレスの場合、共有スペースでディスカッションを行うケースはありますが、機密情報が漏洩するリスクがあります。
共有スペースには社外の方が訪れているケースもあり、意識をせずに会話をすると思わぬ形で機密情報が洩れる可能性は否めません。
また、フリーアドレスの場合、席の行き来が自由なため、移動の際にパソコン画面を覗かれ、プライバシーな情報を見られる可能性が高まります。
情報漏洩のリスクやプライバシー侵害を対策するためには、運用ルールが重要になります。
社外の人たちは特定のゾーンに入れないことや機密情報を扱う際はパーティションがある席で業務をすること、クリアデスクの徹底などのルールを設けましょう。
フリーアドレスは風通しの良いオープンな働き方だからこそ、一定のルールでセキュアな環境を作る必要があります。
フリーアドレスオフィス導入を成功に導くための5つのステップ
フリーアドレスオフィスを導入する際は、単に固定席の制度を廃止するだけでは不十分であり、適切なプロセスを踏む必要があります。
本章では、フリーアドレスを導入する際のプロセスを5つのステップに分けて、解説します。
現状分析と目的の明確化
フリーアドレス導入のアクションを始める前に、まずはフリーアドレスを導入する目的を明確にしましょう。
例えば、各チームのコラボレーションの活発化やコスト削減などです。
フリーアドレスを導入する目的は、レイアウトや座席数など全体に影響を及ぼすため、目的が曖昧なまま進むと、中途半端なフリーアドレスになる可能性が高まります。
導入目的の確認とあわせて、現状分析も忘れてはいけないポイントです。
現状の課題を確認することで、フリーアドレスで解決すべき大きな問題が見つかる可能性があります。
フリーアドレスは、いきなり導入をし始めるのではなく、現状分析と目的の明確化から始めましょう。
経営層と従業員の合意形成
フリーアドレスを人事部や総務部だけが導入しようとしても、経営層や従業員の協力がなければ、成功させることは難しくなります。
全社的な理解と協力が必要なため、フリーアドレスを導入して問題ないかの合意形成を図りましょう。
合意形成には説明会や意見交換会、アンケート調査を行い、丁寧に意見を拾い上げています。
丁寧な意見調整をしないまま進めると、思わぬ反発を招きかねません。
意見やアンケートの結果を踏まえた内容にすることにより、全社的に理解と協力が得られるフリーアドレスとなります。
環境整備とITインフラの強化
全社的な合意形成を得られた後は、フリーアドレス化に向けて、環境整備を始めましょう。
作業スペースや共有スペースのデザイン、デスクや椅子の購入を行い、従業員の働きやすい環境作りをします。
同時に、どこの座席でも安定した通信が行えるように、Wi-Fi環境やネットワークハブの整備も欠かせません。
昨今は、タブレットやスマートフォンの業務利用が当たり前のため、Wi-Fi環境の整備は必須といえるでしょう。
ルール作りと運用の定着化
フリーアドレスになると座席は自分の物ではなく、従業員全員の物に変わります。
お互いが気持ち良く座席を使えるように、席の利用ルールを定めましょう。
具体的には、退社時のクリアデスクや引き出しに物を入れっ放しにしないなどのルールです。
荷物の管理も清潔な環境を保つためには必要であり、荷物の管理方法も定めなくてはなりません。 フリーアドレスのルールは、オフィス内や誰もが閲覧できるファイルサーバーに掲載して、常に確認できるようにしましょう。
効果測定と継続的な改善
フリーアドレスをしてから一定期間が経過した後は、アンケート調査やヒアリングを実施して効果測定をしましょう。
定量的・定性的な分析からフリーアドレスの導入効果がわかり、プラスの作用やマイナスの作用が浮かび上がります。
プラスの作用は継続できるように推し進め、マイナスの作用には新たな対応策を打って、改善を図りましょう。
課題の解決策には他企業の導入例が参考になります。
【事例に学ぶ】業種・規模別フリーアドレスオフィス成功事例
フリーアドレスオフィスは、様々な業種・規模の企業が導入しており、なかには狙いどおりに成功した事例があります。
本章では、業種・規模別にフリーアドレスオフィスの導入成功の事例を解説します。
オフィス機械・システムの販売を手掛ける大手企業A社
A社では生産性の高い組織や活発なコラボレーションが起きる組織を目指して、フリーアドレスを導入しました。
導入にあたり、紙ベースの業務スタイルや電源不足が障壁となりました。
以下の施策を打つことで、導入の障壁となる問題を解決して、無事に導入する運びとなりました。
- 電子契約システムの導入やワークフロー申請の電子化
- オフィス全館の電源基地の増設
- オフィス全館の無線LANの導入
A社ではフリーアドレスにより、80%以上の従業員が適切なコミュニケーションが増えたと回答しており、A社の狙いどおりの導入ができた結果となっています。
住宅建材の販売を手掛ける中堅企業B社
B社では、縦割り業務から起きる他チームへの関心の低さを解決するために、フリーアドレスを導入しました。
導入当初は、チームが分離して座ることへの不安や荷物の保管場所を課題と捉える声が多く上がりました。
導入チームが一つひとつの課題に丁寧に向き合った結果、現在では部署の垣根を超えたコミュニケーションが生まれるようになりました。
B社ではフリーアドレスにより、縦割り業務から起きる他チームへの関心の低さを解決することができました。
システムの自社開発を手掛ける中小企業C社
C社では在宅勤務の導入により、全員分のデスクが不要になったことから、フリーアドレスの導入に踏み切りました。
導入当初は、出社したら座席がないため、チームから離れた席で作業をするなど逆効果ともいえる事態がありました。
座席がない課題は、座席予約システムの導入により、無事解決に至りました。
C社ではフリーアドレスの導入後、座席の問題以外では大きな支障がなく運用ができており、オフィス縮小により年間数千万円のコスト削減が実現できています。
まとめ
今回は、フリーアドレスを導入するメリットやデメリット、実際の導入事例を解説しました。
今回解説した内容をまとめると以下のとおりです。
- フリーアドレスにはコミュニケーションの活性化やエンゲージメント向上などのメリットがある
- フリーアドレスには居場所確保や情報セキュリティのリスクなどのデメリットがある
- フリーアドレスの導入を成功させるには丁寧にプロセスを踏む必要がある
フリーアドレスを導入の企業は、メリット・デメリットを踏まえ、適切な手順で導入を進めてください。
