退屈な研修からの脱却──ワンビが描く「文化としてのセキュリティ」とゼロトラストの現実解 

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執筆者:ワンビ株式会社 代表取締役 加藤 貴

企業のセキュリティを揺るがす最大のリスクは、実は「人」そのものだ。 

最新の攻撃手法よりも、たった一通の不審メール、たった一度の判断ミスが致命的な被害を生む。 

そして、その人の行動を変える唯一の手段は「ルール」でも「脅し」でもなく、「文化」である。 

ワンビは、セキュリティを守るための負担ではなく、挑戦を支える文化として育てることを目指している。 

社員が自ら進んで安全行動を取るようになるとき、そこに本物のセキュリティが生まれる。 

それは退屈な研修ではなく、楽しみながら「自分ごと」として学ぶ文化の力によって実現される。 

セキュリティ文化とは「信念」の集合体 

セキュリティ文化とは、マニュアルやルールを指すものではない。 

それは、組織に浸透した信念と価値観の集合体だ。  社員一人ひとりが「自分の行動が会社を守っている」と感じ、 「失敗しても正直に報告して次に活かせる」と思える。 

そんな空気が企業の中にあるかどうかで、守りの強さは決まる。

ワンビが支援する多くの企業には、次のような共通点が見られる。 

  • 経営目標とセキュリティ対策をセットで考える。 
  • セキュリティを義務ではなく挑戦の基盤として扱う。 
  • トップが率先して模範を示す。 
  • ミスを非難せず、学びとして共有する。 

このような文化を築くことは容易ではない。 一度の研修や啓発キャンペーンで根付くものではなく、長期的に育む必要がある。 しかし、その努力が「企業を守る最大の盾」となるのだ。 

「なぜ」を伝えることで人は動く 

セキュリティ施策がうまく機能しない理由の多くは、「なぜ守るのか」が伝わっていないことにある。 

人は、理由が分からないままでは行動を続けられない。 

たとえば、USBメモリの利用禁止をただ命令するだけでは、社員の理解を得られない。 だが、「USBメモリは便利だけれど、もし紛失すれば大切な顧客データが流出する可能性がある。クラウド保存なら安全に履歴も追える」と説明すれば、社員は納得して行動を変える。

ワンビが提供する各種ソリューションは、この「なぜ」を伝えるための仕組みを内包している。 単に管理するツールではなく、社員を支えるツールとして設計されているのだ。 

それは、セキュリティの原点が「信頼」であることを知っているからである。 

情報を漏洩してしまう可能性を「報告しやすくする」こと。それが最大の防御 

セキュリティ文化の核心は、「報告を恐れない」空気づくりにある。 

人間は誰でもミスをする。問題は、ミスを隠すことだ。 

たとえば、ノートPCを紛失した社員がいたとする。 

多くの場合、その社員は焦りと罪悪感から、すぐには上司や管理者に報告できない。 「自分で探せば何とかなる」と思い、駅やカフェを走り回る。 その間にも端末がネットワークに接続されれば、機密データは流出の危険に晒される。 報告の遅れが、被害を決定的に広げてしまう。 

この「ためらい」を無くすために必要なのが、技術による心理的支援だ。 ワンビが提唱するのは、リモートワイプソリューションの導入による「転ばぬ先の杖」モデルである。 

この仕組みでは、端末を紛失しても社員は慌てる必要がない。 

報告すれば、管理者が即座に位置情報を取得し、端末を遠隔ロック・ワイプできる。 

データはクラウド上で守られ、端末は無価値化する。 

つまり、「報告すれば救われる」仕組みができているのだ。 

社員にとっては報告が早いほど助かるというポジティブな学習体験になり、 企業にとっては被害を未然に防ぐ仕組みとして機能する。 これはまさに、人とシステムが協力して築くゼロトラストの実践形である。 

ゼロトラストとは「誰も完全には信頼しない」という冷たい考え方ではない。 むしろ、「誰もが正直に報告できる」関係を支えるための仕組みなのだ。 

その意味で、ワンビのリモートワイプは人を信頼するためのゼロトラストである。 

「体験」が意識を変える 

セキュリティ文化を育てるには、座学よりも「体験」が効く。 

ワンビでは、疑似フィッシング演習やセキュリティクイズ大会といった参加型研修を推奨している。 笑いながら、競いながら学ぶことで、セキュリティはつまらない義務から楽しい日常に変わる。 

また、日々のコミュニケーションの中にセキュリティを溶け込ませる工夫も有効だ。 

たとえば、社内チャットで「今日のセキュリティ一言」を共有する。 

「パスワードを変えましたか?」ではなく、「あなたの行動が、未来のあなたと仲間たちを守っています」といった温かいメッセージが良い。 

文化は、小さな言葉の積み重ねで育っていく。 

製品は学びの鏡になる

セキュリティ製品の目的は、単に防御を強化することではない。 社員と組織が自らの行動を見つめ直し、学び続けるための「鏡」であるべきだ。 

ワンビのデバイス管理・データ保護ソリューションは、 アラートやログを叱責の材料ではなく改善のヒントとして活用できるよう設計されている。 

「なぜこの操作が危険なのか」「どんな環境がリスクを生むのか」をデータで可視化し、 
社員と管理者が一緒に改善策を考える。 この共同作業こそ、セキュリティ文化の醸成プロセスそのものである。 

ツールが人を監視するのではなく、人がツールと協力する。 

その結果、社員は「見張られている」ではなく「守られている」と感じるようになる。 

ここに、ワンビのセキュリティ哲学がある。 

「報告文化」×「ワイプ技術」がつくる真のゼロトラスト 

ゼロトラストが広く語られるようになって久しいが、 それを技術の導入だけで実現しようとする企業が多い。 だが、ワンビの視点から見れば、ゼロトラストは文化と仕組みの両輪でなければならない。 

人は信頼されることで動く。 

しかし信頼が裏切られることもある。 

その矛盾を受け入れながら、最悪の事態を前提に「転ばぬ先の杖」を備える。 

それがリモートワイプの本質だ。  端末を紛失しても「すぐ報告すれば何とかなる」という安心感があると、 社員は躊躇せず行動できる。 

その一歩の早さが、企業を救う。 

この人間らしいゼロトラストこそが、ワンビが提唱する新しいセキュリティ文化である。 

結論:人を叱るより、人を守る会社に 

セキュリティをやらされることから誇りに変える。 

社員が笑顔で守る会社は、どんな攻撃にも強い。 

その文化はやがて、取引先や顧客、社会全体に波及していく。 

しかし、セキュリティ文化を築くうえで最も避けなければならないのは、 「ミスをした社員を叱ること」や「罰則で恐怖を与えること」だ。 それは一時的に緊張感を生むかもしれないが、長期的には人を失う。 

インシデントを起こした社員を責めれば、その人は深く傷つく。 「自分はもう信頼されていない」と感じ、やがて職場を去る。 そして会社は、単なる人材ではなく、文化の一部を失う。 最も守りたかった「組織の信頼」そのものが、静かに崩れていく。 

企業や団体がセキュリティを導入する本当の目的は、 会社の信用や業績を守ることだけではない。 

そこに働く人の雇用を守り、その家族を守ることにこそ意味がある。 安心して働ける環境をつくり、誰もが「この会社を愛せる」と思える社会を築くことが、 セキュリティの最終目的なのだ。 

ワンビは、技術と文化の両輪でその理想を実現する。 

恐怖ではなく信頼を、管理ではなく支援を。 

セキュリティを「人を守る力」に変えること——それが、ワンビの使命である。 

そして、ワンビという存在 

ワンビは、派手な言葉よりも、静かな思いで技術と向き合ってきた。 

私たちは純朴な技術者集団であり、嘘のないものづくりを信条としている。 

できることは限られている。 

しかし、その限られたことを、世界で唯一のレベルで実現できる。 

それが、ワンビの誇りだ。 

私たちが作るプロダクトは、他の誰にも真似できない独自技術の結晶であり、 日本の現場で、世界の人々に提供するために磨かれてきた。 

その技術によって、文化を、信頼を、そして人の未来を支える。  ワンビはこれからも、ワンビでしかできないことを、ワンビの技術で実現し続ける。

それが、私たちの挑戦であり、約束である。